未成年の告白


貴哉と付き合って数週間、週1〜2くらいのペースで一緒に帰る事になった。

部活や委員会など、放課後の活動が多い私達には

それがちょうどいい。

貴哉は今までも一緒に帰ったりしてたけど、付き合ってからは

「いいのいいの。」

と、私をちゃんと家の前まで送ってくれて、そんな気づかいに感心したり、

感動したり。

こんな私でも、女の子として扱ってもらってるんだなぁと思うと、

少し気恥ずかしい事もあるけど、とりあえず、嬉しくて。

相手が貴哉というだけで幸せなのは、付き合いはじめて

少ししかたってないからなのだろうか。でも、今



幸せ、です。




まだ少し暑さが残る秋の昼休み。

私達は一緒にお昼ごはんを食べるとか、

そういうイチャイチャしたことが基本的に苦手で、

いつも仲の良い友達と、わずかな休み時間を過ごす。

そんな時。

「藤岡、今度の日曜映画見に行かない?」

いきなり貴哉に話し掛けられたと思ったら、

それは初デートのお誘いだった。

実は、貴哉と私はまだデートをしたことがなかった。

さっきも言ったように、2人で仲良く買い物をしたりだとか、

そういうのは恥ずかしくて、(特に貴哉が恥ずかしがり屋なので)

今まで考えた事もなかった。

この頃の私達の世代の人は、すぐデートだとかっていって、

普通にお祭りに行ったり、水族館とかに行ったりするけど、

私達にはそれは日常茶飯事で。

改めて彼氏彼女としていくのはむずかゆいようで、嫌がってたのに。

なのに。

恥ずかしいけど、照れくさいけど、貴哉から誘ってくれたのだ。

恥ずかしいのと、照れくさいのと、びっくりなのと、

嬉しいのとが全部混ざって、私はただただ首を縦にブンブン

振る事しか出来なかった。

それでも貴哉は笑顔で返してくれた。

こんな幸せのなか、ひとつ、気になる事があった。

私は仲の良い友達は男女とも関係なく下の名前で

呼ぶ事にしているので、貴哉のことはずっと『貴哉』と呼んでいた。

貴哉はというと、私の事をずっと『藤岡』と呼んでいる。

そりゃぁ、小学校に上がった時から貴哉はそう呼んでるけど。

付き合うと決めた時に言おうと思ったのだが、タイミングがあわずに言えなかった事。

「名前で呼んでほしい。」

ということ。






正直、愛菜ちゃんが、森崎君と付き合っている、

という噂を聞いて、私は自分でも驚くぐらい、落ち込んだ。

なんで、森崎君なんかと。

そんな気持ちが大きくて、今度は焦った。

私にとって愛菜ちゃんは憧れの存在だった。

可愛くて、頭も良くて、スポーツもできて、誰にでも優しい。

完璧。

小学校の頃から憧れていて、今では私の中で神様と同じような
ものとなっている。

それなのに、そんな愛菜ちゃんが、あんな不良と付き合ってる
なんて....。

こんな噂は嘘だ。きっと、嘘だ。




一限目の前に、夏美(なつみ)が顔を真っ赤にして私のとこにやってきた。

開口一番、

「愛菜ちゃんて、森崎君と付き合ってんの?」

付き合っている事は誰にも言うな。と貴哉は言っていた。

『秘密の恋ってドキドキするじゃん!!』

と、笑顔で言われた時にはさすがにため息が出たけど。

とりあえず、今はごまかさないと。

「え?付き合ってないけど、なんで?」

昔から演技力には(嘘をつく事には)自信がある。

嘘がばれる事はないくらい。

もちろん、夏美にもばれる事はなく、

「そっか、何となく気になっただけ。ごめんね。」

本当に申し訳なさそうな顔で夏美は自分のクラスに戻っていった。

『なんとなく気になった』なんて嘘だろうなぁ。

夏美は元が良い子だから、嘘が下手なのだ。

誰かがこの事を嗅ぎ付けて、言いふらしているのだろうか。

なんだか、嫌な予感がした。







基本的に超照れ屋の俺は、初デートの誘いもなかなか言い出せなくて、

愛菜には、本当に悪いと思っている。

現にこうして、彼女を下の名前で呼ぶ事すら出来ない。

今までは、普通に祭りとか一緒に行ってたはずなのになぁ。

あぁ、なんと不甲斐無いんだろう。

それでも、勇気出して誘った時、ブンブン頭を縦に振ってた姿が
可愛くて、

罪悪感や不甲斐無さなんて飛んでいった。

とにかく、愛菜をデートに誘えたので一安心。

あとは、日曜日を待つだけだ。





それから、日曜日はあっという間に来てしまった。

新しく買った、 可愛らしいシフォンのスカート。

貴哉、気に入ってくれたらいいけど。

学校の正門で待ち合わせ。

5分以上前につくように家を出たのに、着いたら既に貴哉が
待っていた。

そのため、できれば言いたくなかったクサい言葉を言わざるをえなかった。

「ごめん、待った?」

自分でも言っただけで鳥肌がたった。

貴哉はと言うと、私の方を見て、大笑いした。

「あ〜マジありえんー!!」

ふ・ざ・け・ん・な、ハゲ。

私の殺気に気付いたのか、貴哉は笑うのを我慢したようだが、

やはり笑いは完全には止まらないようだった。

「こんな可愛い格好して、いつもよりぶち女らしくなってて、

もうお前やないみたいなのに、『めっちゃ不本意』って顔して

『ごめん、待った?』とか。キャラじゃないやん。」

終始顔を赤くしながらも楽しそうに話す貴哉をみてて、

なんだか怒りはどこかへ行ってしまったようだった。

しかも、可愛い格好って。女らしいって。

生まれてから初めて言われたような。

いつも恥ずかしがってそんな事言わないのに。

やっぱり貴哉と付き合えてよかった。





歩きながら二人で駅まで行くと、駅の手前に隣のクラスの山城君と、水津君がいた。

二人とも貴哉の友達で、いつも一緒にいる人たちだった。

彼らが視界に入った瞬間、貴哉の顔が真っ青になった。

もはや血の気は完全に失せていた。

「どうしたの?大丈夫?」

私の呼び掛けにも、聞こえているのかいないのか、

微妙な反応を残して、彼は押し黙ってしまった。

「あれ?貴哉!なにしてんの、ここで。」

水津君がこちらに気付いて声をかけてきた。

もちろん、隣にいた山城君もやってきた。

「お、おぉ〜賢人と太一!!!」

貴哉が明るく返す。が、なんだか様子がおかしい。

なんなのだろう?さっきから変だ。

なんというか、焦っているようにも見える。

「?藤岡もいんの?え、何。ふたりで来たん?」

山城君が私の顔を覗き込むように、言う。

びっくりするというか、むしろ怖かった。

なにが起きているのかわからない。

そこにさりげなく貴哉が入ってきて、私から山城君を遠ざける。

ほっとして貴哉の方を見ると、もうさっきまでの様にこっちをむいてはいなかった。

「いや、今そこで会っただけ。藤岡はクラスの女子と

待ち合わせしよるんて。なぁ、お前らどこ行くん?カラオケ?」

え?

「あぁ、カラオケ。貴哉も行かん?二人じゃ寂しいけぇさー。」

「行くー。あ、じゃぁまたな藤岡〜。」

は?何?一体....。

なんでカラオケ行くの?デート行くんじゃなかったの?

『藤岡はクラスの女子と待ち合わせ』なんて。そんなのしてないのに。

貴哉と映画見に行くんだって、楽しみにしてたのに。

初めての、デートだったのに。

貴哉は、私をおいて行ってしまった。













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