紅のなかの算段
  


いつものように、放課後、先生に勉強を教えてもらう。

これのおかげでだいぶ成績が上がったので、親にも担任にも褒められた。

だけど一番褒めてほしい先生は何も言わない。

問題集がだいたい終わった頃、もう空はかんなりと紅く染まっていた。

「先生、授業のときにいった言葉憶えてますか?」

「いろんなクラスで同じような説明してるから憶えているとは思うんだけど。」

「ううん、説明じゃなくて。」

「佐田くんに言ってました。」

佐田くんはいつもおもしろいことばっかり言ってて、うちのクラスのムードメーカーである。

でも彼は面白いことばっかり考えていて、

授業をまともに聞いたためしがなく、先生方は困っていた。

「俺なんて言った?」

先生が私の隣の席に座る。

ちょうどそこが佐田君の席だった。

「『お前そんなに勉強したくなかったら夏休みの間だけでも俺んちに来い。教えてやるから。』」

「え?そんなこと言ったっけ?」

「佐田君があんまりやる気ないから先生困り果てて呟いたんです。」

「そっか〜。」

全然憶えてないや。

そう言う先生にあたしは

「それは老化現象って言うんです。」

と伝えると、頭を叩かれた。

叩かれたところをさすりながらあたしは話を続けた。

「もし先生がそれをあたしに言ってたら、あたしは荷物まとめて家出てましたよ。」

「ほんとに?」

先生の目が輝く。

「その瞬間学校飛び出してでも。」

「嘘ー言えば良かった。」

「ほんとに。」

本当に。あの時本気でそう思った。

だから言われた佐田くんがすごく羨ましかったのを憶えてる。

「どうせもう授業じゃ会えないしなー。」

「しょうがないですよ。卒業ですから。」

あの時はまだあたしは1年だったから、もう2年近くこんな付き合いを続けている。

毎日先生の顔が見られなくなってしまったら、

あたしはきっとぺしゃんと潰れてしまうんじゃないか。

それほど先生に依存していたのに今頃気付いた。

ふいに先生が真面目な顔をした。

「なぁ、俺と一緒に住む気ある?」





「いいんですか?」

一緒に暮らせたら、どんなに幸せか頭のなかでシュミレーションしてみる。





幸せだろうか?

ちょっと不安になった時、それを先生の声が遮った。

「お父さん許してくれる?」

「あー怪しいですね。怖いんですよお父さん。」

うちのお父さんは、パッと見ヤーさんに見えるらしい。

友達が口をそろえて言ってた。

本当はまぁまぁ優しいし、もうあたしは慣れてしまったけど、

一緒に買い物してたら、あたしがヤクザに誘拐されたという噂が流れたこともあった。

「逃げるか。」

先生はどうやら本気だ。

「でも親子の縁を切ったりするの嫌ですよ。仲良しなんですうちの家族。」

うー困った。呻く先生。

「今度の日曜日って家族みんな家にいる?」

ちょっと待ってください。

あたしは手帳を開いて予定を確認した。

「兄はサッカーの大会があるかもしれないけど他はみんないると思います。」

「挨拶しに行かないとねー。」

「結婚ですか?え、結婚するんですか?」

そう言うと、肩をすくめて先生は落ち込んでしまった。

「やっぱり10歳近く離れてると嫌?」

そんなことないです、と言ってはみたが、先生はまだいじけていた。

「子どもが戸惑いません?」

「まあ、説明したらわかってくれるよ。」

「そうですね。」

そりゃぁ、こんなあたしとこんな先生の間に生まれた子どもだったら、

少々の事では驚いたりしないだろうけど。





「言っときますけど、」

「はい。」

「あたし嫉妬深いし疑い深いから、浮気するなら絶対バレないようにしてください。」

「浮気前提で結婚するの?」

そうじゃなくて。

「もしも、あたしに飽きても、結婚したら捨てないでください。

浮気してもいいから、最後は絶対にあたしのところに帰って来てください。」




「お願い。」




「わかったから。」

「絶対ですよ。じゃないと呪います。」

「怖いな。」

先生は笑っているけどあたしはどうやって呪うかもう決めていた。




「先生、」

「なんでしょう?」

「スーツで来た方がいいですよ。」

わからない、とでも言いたそうな顔。

家族のみなさんへのごあいさつ、と付け加えると、あぁ、と先生も納得した。

「どのスーツがいいと思う?」

「あたしあの黒いやつ好きです。」

「じゃーあれでいこうか。」

決まりー。いぇー。あたしたちはパチパチと手を叩いて盛り上がった。

「坂井、」

「へ?」

「ネクタイも選んでよ。」

「任せてください。」

「頼んだよ。」

先生の笑顔はかっこいい。こう思っているのはあたしだけ。

「さてとー、今からどうする?」

ちら、と時計を見るともう5時半だった。

「そうですねー、知り合いが絶対いないところでお買い物したいです。」

「また遠出?最近ガソリン代すっごい高いんだよ。」

「今はまだ先生と生徒です。バレたら先生クビになります。」

「うー。」

「ネクタイ選んであげますから。」

「絶対だよ。」

「約束。」

先生の小指は、あたしの小指みたいに冷たくなかった。



FIN



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まさかはるが書くとは思わなかった。先生と生徒の話。気持ちわりー。笑
夢で私が言ってたんです。先生に向かって。
「もし先生がそれをあたしに言ってたら、あたしは荷物をまとめて家出てましたよ。」
出ていかねーよ普通。
いやいやびっくりな夢だった。
まあ詳しいことはだいありーに書くと思います。




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