読心術



物心ついたときには、もう隣にいた。

一緒にお風呂に入ったり、お互いの家に泊まりに行ったりした。

遊ぶ時はいつも一緒だった。

おもしろい奴だったし、手間がかかる人だし、実は寂しがりやで、

お笑い好きの、世話焼きの私にはぴったりだと思った。

あくまで、友人として。

いつからだろう。 

彼の笑顔が、声が、姿が、髪が。

愛おしいと思いはじめたのは。







今頃、やたらと暑い。ニュースでは、ほとんど毎日真夏日が続いているという。

そんな時期。

「フ・ジ・オ・カ〜〜見して♪」

「少しは自分で解きーや、一次関数くらい」

「答え写すんやないもん。答え合わせやもん。」

「うわっ意味わからん言い訳っっ。」

「もうーええけぇ見してぇやそのプリント。」

「ハイええから立ち歩いたり喋ったりしないでー。」

「「はぁーい。」」

先生に注意されて、私は黙り、貴哉は席に戻った。

といっても私の席から3、4歩の席なので、先生の目を盗んでまた私のところに来て、

とうとうプリントを持っていった。

「(持っていかんでぇやーまだ途中なんやけど)」

口パクで抗議する。

「(大丈夫っちゃ!藤岡ならこんなのチョチョイのジョイやで!!)」

口パクでアホな冗談かまして、貴哉は頭を伏せてプリントに取りかかった。

やっぱり写しよるやん。とひとり呟いて、私は問題集を取り出す。

いつもならこんな問題集解くのに苦労などしないけど、集中できないので貴哉を盗み見てみた。

貴哉の髪、うらやましいなぁ。

自然に立っているそれは、ワックスをつけてないので、

触るとさらさらフワフワして心地がいい。

つい最近まで寝癖のまま学校来てたくせに。なんだかなぁ。






そのとき、




ゴンッッッッ!!!!!



いったぁ!!!!!!




急いで振り返ると3つ後ろの梨花がニヤニヤ笑っていた。

一応、私は親友だと思っている。同時に悪友でもあったりする。

梨花が執拗に足下を指差すので、先生に見つからないように足下を探っていると、

椅子の下に石を包んだ手紙が落ちていた。

石を包んだ手紙が落ちていた。



『またダーリンのこと見つめちゃってぇ。。

夏でもあいかわらず熱いねーー!!!!

てか大ニュースあるんやけどっ!!!!

昼休み屋上集合で↑↑ 梨花。。』




ひやかしはいつもの事だから放っとく。で、大ニュースって。

とりあえず、また屋上の鍵パクってこなくちゃなぁ。

そして...梨花、憶えとけ。





で、昼休み。屋上は太陽に近くて、やっぱり暑かった。

「梨花ー!!」

「遅い。」

「梨花が早い。てか4限サボりんな。」

「で、大ニュースの事なんやけどぉ〜、」

流された。

梨花も私もお弁当を出す。今日は大好きなハンバーグ。やった。

「5組の中島優香莉っておるやん?」

コンビニおにぎりを頬張りながら梨花は続ける。

「うん。」

私もハンバーグを頬張る。やっぱりうちの母さんのハンバーグは美味しい。

「あのお嬢様、明後日森崎に告るんて。」

『森崎』って貴哉の名字。

「へ〜そうなん、ぶぁっっ?!」

口元にあったはずのハンバーグがぶっ飛んだ。

「愛菜っ?!大丈夫?!」

「あ、うん大丈夫。ぁえ?ぅあ?でもホントに?」

「ホント。本人がいいよったの聞いた。どうする?愛菜。森崎とられちゃうよ?

ええそ?」

ええそ?と言われましても...。

「あたし別に森崎にそんな感情抱いてはいないのでまぁなんと言うかねぇ

ほらもうどうでもなんつーか勝手にどうぞ的な.....」

だって、私は本当に貴哉にそんな感情ない。と、思いたい。

中島さんは可愛いし、勉強もできるし、お金持ちだし....お似合い。

「へぇ〜そぉ〜〜。あたしはてっきり愛菜は森崎が好....」

「違うし!!ホント。」

そう、特別な感情は、ない。あってはいけない。

今まで私が築き上げて来たこの関係。

強いようで、一瞬で崩れてしまうこの絆。

まだ少し幼さの残る笑顔の貴哉を、失いたくないから、








言っちゃいけない。バレてはいけない。


  






「大丈夫?藤岡?」

「ぅあ!!な、何?!」

.......貴哉。

「あー、いや、なんか百面相しよったし。」

「ぇ、あ、あぁ、うん。平気平気。......なんでみんなおらんの?」

見渡すと、教室には2人だけ。

「次、音楽だし。行ったんやないん?みんな。」

「あぁ、そっか。行かんと......」 

そこまで言いかけると、貴哉に腕をつかまれて、

立ちかけた状態で動けなくなった。

力、結構強くて、痛い。

つーっと、背中に汗が流れる。

「......何?」

貴哉は自分でも自分の行動にびっくりしてるみたいだった。

「、まぁ、座れよ。なんか悩みでもあるんやろ?聞くよ、俺でよければ。」

貴哉は座る。しょうがないので、その席の前の席を

向きを変えて貴哉と向き合うようなカタチで座る。

「どうせ貴哉サボりたいだけやろ。」 

「バレた?でも1人じゃヒマやしぃ。」

「しょうがないなぁ。」

そう言えば、5組は5限体育だった。今の時期女子は外でソフト。

なんだろう、ちょっと、優越感。

私もしかして末期かもしれない。

ふと顔をあげると、貴哉のちっちゃい子みたいな笑顔が、光に照らされてきれいにみえた。

「で?なんかあったの?」

「あぁ、なんていうかねぇ....」

本当に考えていた事をいったら、貴哉はいなくなってしまう。

「...だめだめなわけよ。」

「だめだめって何が」

「あたしが。」

「だめだめっつったっていつもお前はだめだめだしなぁ。」

「は?」

「嘘だって、ね。嘘嘘。で、何がどうだめだめなの?」

少し顔つきが真面目になったので、なんだか焦った。

「いいんだ、あたしが我慢してれば良い事だから。」

「ふ〜ん、お前が我慢..。」

「そう。」

「それでいいならいいけど、」

いつの間にか大きくなった貴哉の手が私の頭の上にのった。

「思いつめすぎんな。俺がいるベ。」

どうしよう、むかつく。 

「もうあたし音楽行くわ。」

急いで立ち上がる。

「待って、リコーダー無い!」

「はーやーくー」

「待ってー!」

結局、授業に20分も遅刻した私達は、罰として、

皆の前でリコーダーアンサンブルをさせられた。






「あの、藤岡さん?」 

下駄箱で靴をはこうとしたその時だった。

中島さん。

「あの、ちょっと話があるの。屋上まで一緒に来てくれない?」

「あ、うん。いいよ。」

急いで靴を戻した。

学年でも有名な美人。そんな人が私にどんな用だろう?何、喧嘩?

まだ暑い屋上に出て、誰もいない事を確認すると中島さんは私の目を真直ぐに捕らえる。

足が動かなくなる。なんか、逃げたい。

「藤岡さんと森崎くんてつきあってるの?」

「まさか。」

返事の速さとその声の感情の無さに一番驚いたのは私だった。

「でも、私さっき教室であなたと森崎くんが2人で話してるのみた。」

どくん、と心臓が跳ねる。

「あんなのなんでもないよ。つきあってもないし、好きでもないし。」

何で私、こんな早口になってんだろう?

「そう、よかった。私、明後日森崎くんに告白するの。だから、応援してね。」

極上の笑顔で彼女は語る。

遅くまで引き止めちゃってごめんなさい。と呟き、

私と可愛らしい香水の香りを残して中島さんは帰っていった。

なんて素敵な子だろう。

私にはないものを中島さんはたくさん持っている。

.......。

だから、何?

中島さんが貴哉に告白したところで、私は何も。

何も。できないよ。

朝起きてもまだ中島さんのことが頭に残っていた。




次の日、いつもの元気が出ない。



朝から気分が悪い。

授業もわからない。

理科の実験では金魚を落とした。

もうどうしようもない。

放課後に忘れ物をしてしまう始末。

もう、いやだ。

教室に向かうと、うちのクラスだけ、まだ電気がついてる。

ドアのところから覗いてみる、と。

貴哉がいた。中島さんも、いた。少しだけ声が聞こえる。

「あのね、私、森崎く...ことが...すき...たの。」

よく聞き取れないけど、これはたぶん『告白』。

そういえば、今日はあの日から2日。中島さんが、告白するといっていた日。

気付くのが、遅かった、何もかも。

貴哉が口を開く。

「俺..........きなんだ。」

え?

オレモナカジマガスキナンダ...?っていったの?もしかして。

貴哉の言葉がぐるぐる頭の中でくり返される。オレモナカジマガスキナンダ。

「........。」

「.........。」

私にはもう聞き取れない会話の後、中島さんは貴哉の腕の中におさまり、

貴哉は困ったような表情でそれをうけとめた。

.......告白成功?カップル成立?

もう私は見ていられなくなって、行き先もなく走り出した。

「...ぉい!!待って藤岡!!」

後ろから貴哉の声。

いやだ、いやだ、聞きたくない何も。聞きたくない貴哉の声。



「待てっつってんだろ。」

いつかのように強く腕を引かれた。振り払おうにも、予想以上に力が強くて。

「離して....。」

ようやく私は振り向いた。

そこには息をきらして真っ赤になった貴哉。

「さっきの話聞いてたやろ。」

なだめるような口調。

いやだ。

いやだ。

いやだいやだいやだ。

聞きたくない!!

もう一度貴哉が何か言おうとした時、私は貴哉の手を振り払って逃げた。

だって、いやだったんだ。好きな人から、

「俺、あいつが好きなんだ。」なんて聞くのが。



もういい加減走り疲れたころ、廊下の反対側から梨花が歩いて来た。

「は?愛菜何したん?」

私の様子のおかしさ気付いたのだろうか。

「何も....ないよ。」

なんとなく言いづらくて嘘をつく。

「じゃぁ、

何であんたは泣いてんの?」

え?

急いで目元に手を当てると、水。涙。

自分でも気付かないなんて私はどうかしてしまった。

頭では冷静にそんな事考えてたのに、次の瞬間私は梨花に抱きついて泣いていた。

「はぁ〜。そうだったの。」

さっきまでの事を話した後の台詞がそれですか。

いや最初からあなたにそういう事は求めてませんけれども。

「だってさぁ。」


あんた中島に先越されたからって逃げ帰ってきたんでしょ?


『先に告白されちゃってマァ可哀想な私』

って思ったから逃げてきて泣いてんでしょ?


「違うよ!!そんな事...ない。」

痛いところをつかれた。

梨花が言った事は全て的を射ていた。

そんな事を自分が考えていたなんて認めたくなかったが、

梨花は全部わかっているようだった。

「意地っ張りだねー愛菜は。ええやん、

人を好きになるとみんなそうなっちゃうんだから。

自然な事なんやけぇさ。」


「だけどね。」


「愛菜が森崎を好きな気持ちはそんなもんじゃないでしょ?

それは自分が一番わかってるよね?いい?

本っ当に森崎が好きなら、中島が告白した後だろうが、

他に好きな人とかがいようが、

自分の気持ちをぶつけてこなくちゃ、いけんと思う。

そんなんで崩れるようなもんじゃないから、あんたたちは。」

真直ぐな梨花の言葉が心を強く打った。

言葉では、言い表せられない何かが、胸に込み上げてきたのがわかった。

梨花は誰よりも私を見てくれてる。

誰よりも私の事を考えてくれてる。

誰よりも、誰よりも。きっと。

そんな梨花に対して、お礼を言う事もできずに、

私はただ嗚咽を漏らしていただけだった。





「少しは落ち着いた?」

私が急にまた泣き出したので梨花は戸惑っていた。

「うん。もう大丈夫。」

大丈夫じゃないのは、真っ赤な目と鼻だけ。

「よかった。」

ふにゃっとした梨花の笑顔。

いつも強気でふざけてるから、こういう顔見ると照れくさい。

「でさ、」

「ん?」

「今考えたんだけど、」

「やっぱり貴哉にはまだ言えん。」

「でも...」

「ううん、伝えんわけやないけど、今はまだ混乱しよるし。

多分貴哉も。もう少し、季節が変わった頃...ね?」

また、さっきよりも優しい梨花の笑顔。

「きつくなったらまた言いなさいな。」

ありがとう。梨花。


この夏の暑さは、駆け足で走り去っていく。










もう、あの頃のような強い日射しもなくなり、暑さも苦痛なほどではなくなった。

時は熟した。

あの日と同じ、放課後。

一気に不安、緊張、恐怖さえもが私を襲った。


『自分の気持ちをぶつけてこなくちゃ、いけんと思う。

そんなんで崩れるようなもんじゃないから、あんたたちは。』


そう、私は貴哉に伝えなくちゃ。

教室のドアに手をかける。

ガラッ

「「あ」」

開けた途端貴哉がいて、はもった。

「いたんだ。」

「おうよ。」

あの頃のような会話ができるだけで、もう幸せな気分でいられる。

どれくらい久し振りなんだろう。

貴哉の座っている席の前に座って、私は深呼吸した。

「「あの」」

...はもった。

「そっちからどうぞ。」

「いやいやそっちからどうぞ。」

「あたしからでええん?」

「ん。後で言う。」

「わかってるかもしれんけど、」

「あの日、中島さんに告白...されたよね。」

貴哉の顔を伺う。ちょっと困った顔。

「あぁ。あれ。お前、ちゃんと聞いてた?」

乗り出してくるのでこっちは下がる。

ちょっと、怖い。

「よく聞こえんかったけど...。」

「まぁ、告白されたけど、ふった、中島。」

にやっと笑う。なんか、今日の貴哉変だ。

「え?だってあの時『俺も中島が好きなんだ』って...」

「聞こえなすぎ。つーか考え過ぎ。俺そんな事言ってない。」

「じゃぁなんて言っ」

「はい、次俺の質問。」

さらに貴哉は乗り出してくる。何何何。

「藤岡さ、」

「ぇあ?」

「俺の事好きだろ。」

「え?」


もういいわ。こいつはこういうやつだ。

あぁもう、知らん。

そもそも、こんな事普通人に聞かないだろ、と思った。

何も言えずに固まってたら、

「嫌い?」

と貴哉は言った。

「....読心術?」

「は?」

「あたしの心の中見えた?何、エスパー?」

真面目に発言した時笑われると凄い屈辱的。

こんにゃろ、笑うな。

「あーごめん、怒んなって。だって、あり得ねぇだろ普通。」

「だから、なんでわかっ」

「ずっとお前を見てたから。」

さっきまで笑ってたのに。いきなりこんな真面目な顔になるなんてずいぶん卑怯だ。

この顔に私は弱いのに。

「だから、ずっと、藤岡だけ見てたから、わかる。行動とかで。」

でも、見てたって...

「見てた...ってどうい」

いちいち遮られる。

「わかんねぇー!!いいよ。わかったって、はいはい。俺も藤岡の事が好きなの!!!」

やっぱりいつものヘラヘラ感はどこにもなく、真剣で、

凄く赤かった。

私もあんまり変わんないくらいだと思う。

「......私も好き。」

「知ってる。」

うるさい、馬鹿。

「今日一緒に帰らん?」

そう言われて、私は慌てた。

「でも優里さんにばれたらまずくないの?」

優里さんは貴哉のお母さん。おばさんと呼んだら殺される。

「俺のチャリの速さで人間の目に見えるとでも?」

貴哉の笑顔が眩しい。

この笑顔が、私を何度幸せにしてくれたのだろうか。

何度幸せにしていってくれるのだろうか。

「よし、帰るべ。」

「その前にさぁ。」

「え?」

私は半笑いで貴哉を見た。

「中島さんと、なんで抱き合ってたのかなぁ?」

「あ、あの、あれは、事故っつーか、成り行きっつーか...」

あまりの慌てように私は噴き出し、貴哉も笑った。

「あの時、俺ちゃんと『俺は藤岡が好きなんだ』って言ってきたのに」

「え?何か言った?」

ごめん聞いてなかった。

貴哉は赤くなって笑い、俯いて言った。

「いや、そのうち。」



FIN










おまけ↓↓












帰り道。

「藤岡は俺のどこが好き〜?」

「うっわ出たバカップル発言〜。」

「照れんな照れんな。ほら言って。」

「そういう女々しいの嫌い。」

「俺はねぇ、藤岡と藤岡に関係するもの全部が好き〜。」

そりゃぁ私も貴哉の全部が好き、だけど、だけどさ!!!

「貴哉ってなんでそんなに照れもせずにクサい言葉を言えるん?」

「今まで藤岡に言おうと決めてたけぇ。」

「そんな事に時間使いんなー!!もっと有効活用するとかせんの?

てか、何が一番クサいって、この体勢ね。」

「どこが?」

「なんで2ケツだからって横座りじゃないとダメなん?!

普通に歩くか前向きに座るかどっちかがええ!!!」

「バッ!!これは俺の長年の夢だったの!!!

藤岡だけを乗せるために今まで誰にも座らせずにおいたの!!!

磨いてたの!!」

「じゃぁ前向きでも」

「スカートがはためくやろ、はしたない。」

私の彼氏は、バカでした。

FIN(本当に)






..............................................................
前に書いてたのを変えてみました。
拳太の故郷のなまりでかいたので、
わかんなかったときはBBSとかで教えてください。
ばっちり答えます。


ブラウザを閉じてください。
55 STREET / 0574 W.S.R / STRAWBERRY7 / アレコレネット / モノショップ / ミツケルドット